研究科長 挨拶(開所時の挨拶)

大阪大学大学院医学系研究科研究科長・医学部長(当時)
平野 俊夫

平野 俊夫

(開所時の挨拶)

PETを用いた分子イメージング技術は、生物が生きた状態のまま、体内の分子の量や働きを画像化することが出来る革新的な技術であり、世界的に注目されている分野です。大阪大学大学院医学系研究科では、文部科学省のご支援を受け平成16年から次世代画像解析装置の開発に着手いたしました。わずか25gのマウスの心筋代謝が撮像できる超高分解能半導体PET、世界初の永久磁石型PET/MRI、リアルタイムで医薬品の体内動態が観察できる超高感度ポジトロンイメージング装置を開発してまいりました。本センターに導入いたしました最新の研究用小型サイクロトロンは、陽子や重陽子を加速し放射性同位元素を生成します。また放射性薬剤合成装置は、あらゆる生体分子や医薬品を放射性同位元素で標識することができます。これらの最先端設備を駆使して、遺伝子改変動物や疾患モデル動物の分子レベルでの病態解析、医薬品の体内動態解析など、世界に先駆けた新しい研究分野が開拓されることが大いに期待出来ます。

本センターの大きな特徴は、すでに稼働している附属病院の臨床用PETと一元的に運営されることです。これによって、基礎研究の成果をいちはやく患者さんに還元することが可能になります。たとえば、動物実験をもとに多数の創薬候補化合物の中から医薬品として最適な化合物を選択し、その創薬候補化合物のヒトでの体内動態、薬効をただちに評価することも可能となります。このようなプロセスによって創薬期間の短縮、開発経費の節減、より副作用の少ない医薬品の開発が可能になります。 もうひとつの特徴は、世界最高の性能を誇る設備を学外の研究者にも利用していただけることです。PET分子イメージング研究はようやく黎明期を迎えました。一人でも多くの若い研究者に利用いただく機会になればと思います。

医学の歴史上画期的な発見の一つに19世紀末のレントゲンの発見があります。これにより初めて人体の画像化が可能となり、現在のCTを始めとする画像診断が発展しました。画像化技術は癌の早期発見等、現代医学に計り知れない恩恵をもたらしました。PET分子イメージング技術は、素粒子科学を駆使した革新的画像化技術です。日本の素粒子物理学の父、長岡半太郎博士を初代総長に戴く大阪大学は、PET分子イメージング研究拠点にふさわしい地であるといえます。今年は、大阪大学医学部の源となった適塾の緒方洪庵先生の生誕200周年にあたる年です。適塾には、日本全国から多くの若者が参集し、切磋琢磨し、医学のみではなく日本の近代化に貢献いたしました。PET分子イメージングセンターが、次世代の医学を担う研究者が日本のみならず世界中から集う21世紀の適塾になることを願っています。